精密投球、助けて、『ダルビッシュマン』

 

 

 

精密投球、助けて、『ダルビッシュマン』

 

 

 

 



日本の治安が心配ですか?何を隠そう、私もその一人です。
跳梁跋扈する広域窃盗団、

身体の弱った高齢者を狙った残虐極まりない犯行。

 

 

 

 



明日は我が身だ、くわばらくわばら。
しかし皆さん、正義の味方、
ダルビッシュマン』の存在を忘れていませんか?

 

 

 

 



広域強盗恐喝犯の急所を確実に狙い定め、
150km/hを超える高速ツーシームをぶつけて現行犯逮捕してくれる、
ダルビッシュマン』の存在を忘れていませんか?

 

 

 

 

 

 

彼は今日も、悪と戦うのです。
「こらーっ! 待ちなさい!」

 

 

 





「待てと言われて待つ奴はいないぜ」
深夜の商店街で繰り広げられる追走劇。
犯人を追い掛ける『ダルビッシュマン』と警官隊。

 

 

 

 



逃走車両に飛び乗る窃盗犯。
警官隊の拳銃から放たれる弾丸が、次々と車を撃ち抜いていく。
「くそっ、タイヤを狙いやがって……! お巡りめ、ふざけんなよ!」

 

 

 

 



「そこのパトカーを止めろ! ぶっ壊してやる!!」
盗難車を運転していた男が、パトカーに向けて猛スピードで突っ込む。
衝突音と共に車体が大きく揺れるが、奇跡的に損傷は無いようだ。

 

 

 

「よし、そのまま止めとけよ……!」
男はアクセルを踏み込み、更に加速していく。
このまま逃げ切るつもりだろう。

 

 


だがしかし、その先には、
ダルビッシュマン』の姿があった。
「うおおおっ!?」

 

 


慌ててブレーキを踏む男だったが、時既に遅し。
車は『ダルビッシュマン』に激突した。
「痛えじゃねえか!!何しやがんだこの野郎!!」

 

 


ボンネットの上で仁王立ちになり、

怒りの形相を見せる『ダルビッシュマン』。
一方、運転席にいた男はというと、 頭を抱えながら震えていた。

 

 


「どうしよう……俺、人を轢いちまった……」
「広域窃盗団に人権などないっ!!」
「ひぃいいいいっ!」

 

 


怯える男の胸ぐらを掴み上げ、

怒声を浴びせかける『ダルビッシュマン』。
そこに警官隊が駆け付けて来た。

 

 

 

「おい貴様!何をしている!」
「げぇっ、まずい……!」
男は慌ててエンジンをかけ直し、その場を走り去ってしまった。

 

 


「待てコラァアアッ!!!」
「止まらんか!公務執行妨害だぞ!」
サイレンを鳴らしながら追跡を始める警察車両。

 

 


それを見送る『ダルビッシュマン』に、一人の警官が声を掛けた。
「あの……ありがとうございました、『ダルビッシュマン』さん」
「ああ、気にしないで下さい。市民を守るのが僕の使命ですから」

 

 


爽やかな笑顔を浮かべる『ダルビッシュマン』。
そんな彼の手には、いつの間にかマイクが握られていた。
「それでは皆さん、また来週~!」

 

 


そう言い残して走り去る『ダルビッシュマン』。
その後姿を眺めつつ、警官達は呟いた。
「ありがとう、ダルビッシュマン。君のおかげで街の秩序が守られた」

 

 


ダルビッシュマン』の活躍によって、犯罪件数は大幅に減少した。
窃盗団のアジトを突き止めたり、

凶悪な通り魔を逮捕したりと大活躍である。

 

 


ダルビッシュマン』は一躍ヒーローとなったのだ。
しかし一方で、『ダルビッシュマン』への反感の声も上がった。

 

 

 

犯罪者の検挙率を上げる為に、

わざと危険な行為を行っているのではないか。

 

 


あるいはただ単に目立ちたいだけなのではないのか。
そういった疑問を持つ者も現れたのである。

 

 


そんなある日のこと、
ダルビッシュマン』の住むマンションの一室に、一通の手紙が届いた。
差出人の名前は書かれていないが、筆跡に見覚えがある。

 

 


それは紛れもなく、

かつての上司『ローキマン・ササキ』からのものだった。
手紙の内容はこうだった。

 

 


―――お前が正義の為に戦うのなら、私もそれに応えよう。
だが忘れるな。
私はいつでもお前を監視している。

 

 


お前の本性を暴き出すまで、決して諦める事は無いだろう。
そして最後の言葉が、これであった。

 

 


――もし再び悪事に手を染めるような事があれば、

その時こそ本当の終わりだと思え。

 

 


「……」
ダルビッシュマン』は暫し沈黙した後、静かに目を閉じた。
「僕は……間違ってなんかいない」

 

 


「ローキマン・ササキ!あなたの方こそ、

高速フォーシームに磨きをかけておくんだな!!」

こうして今日もまた、正義の味方の戦いが始まる。

 

 


ダルビッシュマン』は、悪人どもを駆逐する為、

己の全てを擲つ覚悟を決めたのだ。
「さあ行くぞ!悪党共め、かかってこい!!」

 

 


【次回予告】

 

 


ダルビッシュマン』のかつての上司、

『ローキマン・ササキ』の過去がついに明かされる。

その衝撃の事実とは……!?